野菜の生育が悪いとき、「肥料が足りないのかな?」と思うことはありませんか?
しかし、原因は肥料不足ではなく、長年の施肥によって土に肥料成分が蓄積していることかもしれません。
そんなときに確認したいのが「土壌EC」です。
ECが高すぎると、根が水を吸いにくくなり、発芽不良や生育の停滞を引き起こすことがあります。
この記事では、現役農家としての経験をもとに、土壌ECの意味、適正値の目安、ECが高くなる原因と改善方法を分かりやすく解説します。
実際に私が、化成肥料の投入を5年間停止して取り組んできた土壌改善についても紹介します。
土壌ECとは?
ECとは、電気伝導度(Electrical Conductivity)の略です。
簡単にいうと、土の中に水に溶ける塩類がどのくらいあるかを知るための指標です。
肥料に含まれる硝酸態窒素やカリウムなどは、水に溶けると電気を通すイオンになります。
これらが多いほど電気が流れやすくなり、一般的にECの数値も高くなります。
| ECの状態 | 土壌の状態 |
|---|---|
| ECが高い | 水溶性塩類が多い可能性がある |
| ECが低い | 水溶性塩類が少ない可能性がある |
ただし、ECは窒素やカリウムなどの成分を個別に測定するものではありません。
また、ECが低いからといって、必ずしも肥料不足とは限りません。
土壌ECの適正値はどのくらい?
土壌ECの単位には、一般的に「mS/cm(ミリジーメンス毎センチメートル)」が使われます。
適正値は作物や土壌の種類、測定方法によって変わります。
ECの数値と施肥判断の目安
| EC値(mS/cm) | 施肥管理の目安 |
|---|---|
| 0.3以下 | 通常の施肥量を検討できる |
| 0.4〜0.7 | 減肥を検討する |
| 0.8〜1.2 | 大幅な減肥を検討する |
| 1.3以上 | 元肥を控えることも検討する |
※土と水を1:5で混ぜて測定する方法を前提とした、一般的な窒素施肥判断の参考例です。すべての野菜や土壌に共通する適正値ではありません。
ECが高いほど肥料を控える必要がある場合が多くなりますが、ECだけで施肥量を決定するのは避けましょう。
特に石灰や苦土、カリなどの蓄積状況は、別の分析項目でも確認する必要があります。
ECが高いと野菜に起こる障害

土壌ECが高くなりすぎると、塩類濃度の影響で根が水を吸収しにくくなります。
このような状態では、次のような障害が起こることがあります。
1. 発芽不良
土壌中の塩類濃度が高いと、種子が水分を吸収しにくくなります。
その結果、発芽が遅れたり、発芽率が低下したりすることがあります。
2. 根の生育不良
塩類によるストレスで、根の伸長が抑えられる場合があります。
根が十分に伸びなければ、水分や養分を吸収できる範囲も狭くなります。
3. 生育の停滞
発芽後に葉の展開が遅れたり、株が大きくならなかったりします。
同じ畑でも、生育にばらつきが出ることがあります。
4. 葉のしおれ・葉先の傷み
土に水分があっても、根が十分に水を吸えず、葉がしおれる場合があります。
塩類の種類や濃度によっては、葉先や葉の縁が傷むこともあります。
高ECによる障害を見分けるには?
これらの症状は、高温や乾燥、過湿、病害などでも発生します。
| 症状 | 高EC以外の主な原因 |
|---|---|
| 発芽が悪い | 高温、乾燥、種子の劣化 |
| 根が伸びない | 過湿、硬盤層、根の病気 |
| 生育が遅い | 養分不足、低温、日照不足 |
| 葉がしおれる | 水不足、高温、根腐れ |
症状だけでECが高いと判断せず、土壌分析で確認することが大切です。
土壌ECが高くなる主な原因
長年の施肥による養分の蓄積
ECが高くなる原因の一つが、長年にわたる肥料成分の蓄積です。
作物は、与えた肥料のすべてを吸収するわけではありません。
毎回の施肥量が極端に多くなくても、前作で使われなかった養分が残り、そこに次の肥料が加わることで徐々に蓄積する場合があります。
特に注意したいのが、毎作同じ施肥設計を繰り返している場合です。
土壌の状態は圃場によって異なるため、同じ量の肥料を与えても、養分の残り方は変わります。
ハウス栽培では塩類が蓄積しやすい
ハウス栽培では、雨が直接土に当たりません。
露地栽培では雨によって水溶性塩類が下層へ移動することがありますが、ハウスではその機会が少なくなります。
そのため、長年栽培を続けていると塩類が蓄積しやすくなります。
排水性が悪い
土壌の排水性も重要です。

例えば、下層に硬い土の層(硬盤層)がある場合、水が十分に浸透しないことがあります。
水の移動が妨げられると、塩類も根の生育する範囲から抜けにくくなります。
ECが高い圃場では、肥料の投入量だけでなく、排水性も確認しましょう。
土壌ECを下げる方法
ECを改善するには、原因に合った対策を選ぶ必要があります。
1. 肥料の投入量を見直す
まずは、土壌中に残っている養分を確認します。
十分な養分が残っている場合は、施肥量を減らすことで新たな蓄積を抑えられます。
ただし、ECが高いからといって、すべての肥料成分が過剰とは限りません。
土壌分析を参考に、不足している成分と過剰な成分を見極めることが大切です。
2. 水による除塩
水溶性塩類は、水とともに土壌中を移動します。
この性質を利用し、多量の水で塩類を根の生育範囲から流す方法が除塩です。
ただし、重要なのは水を与える量だけではありません。
塩類を含んだ水が排出されることが必要です。
排水の悪い圃場で大量に潅水すると、過湿による根傷みなどを招く場合もあります。
3. 排水性を改善する
硬盤層や排水不良がある場合は、土壌構造そのものを改善する方法もあります。
| 方法 | 主な目的 |
|---|---|
| 暗渠排水(あんきょ) | 地下の余分な水を排出する |
| プラソイラ・心土破砕 | 硬盤層に亀裂を入れる |
| 深耕・天地返し | 土層の状態を改善する |
| 客土 | 土壌の性質や作土の状態を改善する |
ただし、硬盤層を破砕しても、水の排出先がなければ効果は限定的です。
また、天地返しや客土は土壌条件によっては逆効果になるため、事前の確認が必要です。
4. 作物に養分を吸収させる
作物に余剰養分を吸収させ、収穫物とともに圃場外へ持ち出す方法もあります。
緑肥を利用する場合、吸収した養分を減らすことが目的なら、地上部を刈り取って持ち出す必要があります。
すき込むと、吸収した養分の多くが再び土壌に戻ります。
また、深く根を伸ばす緑肥には、土壌に孔隙を作り、排水性の改善が期待できる種類もあります。
ただし、硬盤層が非常に硬い場合は根が貫通できないこともあります。
【農家の実体験】化成肥料を5年間やめた圃場の変化
私が管理するハウス圃場でも、長年の施肥によって養分が蓄積し、水菜の生育不良に悩んだ経験があります。
土壌分析を行ったところ、ECが高いだけでなく、石灰分も大幅に過剰な状態でした。
分析会社からは、「3年くらい肥料を入れなくてもよい」と言われるほどでした。

はっきりいって異常値レベルです。
みなさんはこうならないよう気を付けてください。除塩は大変です…
化成肥料をやめて約3年目から生育が改善
それまでは、別の圃場の分析結果を参考にした施肥設計を利用していたため、排水性の悪い圃場にも同じ施肥量を適用していました。
そこで化成肥料の投入を停止し、土壌中に残っている養分を利用しながら栽培を続けました。
水菜の生育が良くなり始めたのは、約3年目からです。
私は、余剰養分が減り、ECが低下してきたことが生育改善につながったと考えています。
ただし、当時の分析結果や改善後の測定値は残っておらず、ECの変化を数値で示すことはできません。
現在は化成肥料の投入をやめて5年になりますが、高温期には今でも生育への悪影響が見られます。
腐植酸を使って土壌の状態も改善
化成肥料をやめた一方で、地力は高めたいと考えていました。
本来は堆肥などの有機物を投入したかったのですが、土壌中にはすでに多くの養分が蓄積しています。
これ以上の養分投入をできるだけ避けるため、腐葉土の利用を考えました。
しかし、大量の腐葉土を確保することが難しく、代わりに粒状の腐植酸系土壌改良剤を使用しました。
目的は、土壌の団粒構造の形成を促し、根が伸びやすい環境を整えることです。
使用を続ける中で、実際に根張りが良くなったと感じています。
ただし、腐植酸は塩類を直接取り除く資材ではなく、腐葉土と同じ働きをするわけでもありません。
冠水除塩を試したが、排水性に課題があった
圃場には潅水設備があったため、水による除塩も試みました。
しかし、期待したほどの改善は実感できませんでした。
そこで土を掘って確認したところ、下層に硬盤層がありました。
この硬盤層が水の浸透を妨げ、除塩の効率を下げている可能性があると考えました。
既存の潅水設備を活用するため、暗渠排水やプラソイラによる硬盤破砕、客土、深根性緑肥なども検討しましたが、これらは実施していません。
この経験から、ECが高い土壌では、肥料の量だけでなく、水が抜ける土壌構造にも目を向ける必要があると感じています。
水菜は高温期に障害が出やすかった
私の圃場では、化成肥料を減らして生育が改善してきた後も、高温期には障害が見られます。
農研機構の研究でも、水菜の周年施設栽培では、硝酸態窒素の集積によって発芽不良や生育遅延が起こることが報告されています。
高温期は土壌表層の水分が蒸発しやすく、塩類濃度の影響が現れることがあります。
ただし、私の圃場では高温そのものや排水性の問題なども関係している可能性があり、現在の原因がECだけにあるとは断定できません。
EC・pH・塩基飽和度の違い
土壌分析では、ECやpHのほかに「塩基飽和度」という項目が出てくることがあります。
どれも重要な指標ですが、調べている内容は異なります。
| 項目 | 何が分かる? |
|---|---|
| EC | 水溶性塩類の濃度の目安 |
| pH | 土壌の酸性・アルカリ性 |
| 塩基飽和度 | 土壌の養分保持容量に対し、交換性の石灰・苦土・カリなどが占める割合 |
塩基飽和度とは?
土には、石灰(カルシウム)や苦土(マグネシウム)、カリウムなどの養分を保持する働きがあります。
この保持能力を表す指標がCEC(陽イオン交換容量)です。
塩基飽和度は、CECに対して交換性の石灰・苦土・カリなどが占める割合を示します。
ECが低くても石灰分が多いことがある
ここは特に重要なポイントです。
ECは主に水に溶けている塩類の影響を受けますが、塩基飽和度は土壌に保持されている交換性塩基の割合を示します。
そのため、ECが低くても、石灰や苦土などが多く蓄積している場合があります。
逆に、硝酸態窒素などの水溶性塩類が多く、ECが高くなる場合もあります。
ECだけで土壌中の養分バランスを判断することはできません。
また、ECが高くてもpHが低い土壌もあります。
石灰などの資材を投入する際は、ECだけでなく、pHや交換性塩基も確認することが大切です。
詳しくは関連記事「土壌pHとは?」と「苦土石灰の使い方」で解説しています。
土壌ECの測定方法
ECを確認するには、土壌分析を依頼する方法と、自分で測定する方法があります。
土壌分析を依頼する
JAや土壌分析機関に依頼すれば、ECだけでなく、pHや肥料成分なども確認できます。
施肥量を見直す場合は、できるだけ複数の分析項目を確認するのがおすすめです。
EC測定器を使用する
自分で測定する場合は、EC測定器を使用します。
土壌分析では、土壌と水を1:5の割合で混ぜて測定する方法が広く使われています。
一方、土に直接差し込むタイプの測定器は、土壌水分などの影響を受けます。
測定方法が異なる数値を、同じ診断基準で比較しないようにしましょう。
よくある質問
ECが低ければ肥料を追加してもいい?
ECが低くても、必ずしも肥料不足とは限りません。
土壌に保持されている養分もあるため、作物の状態や土壌分析結果を参考に判断しましょう。
ECが高い場合、石灰をまいてもいい?
石灰はECを下げるための資材ではありません。
石灰分がすでに過剰な場合もあるため、pHや交換性石灰などを確認してから判断しましょう。
水をたくさん与えればECは下がる?
水溶性塩類を下層へ移動させることはできますが、排水性が重要です。
水が抜けにくい圃場では、潅水だけで改善するとは限りません。
ECが高くても野菜は育つ?
育つ場合もあります。
ただし、作物の種類や生育段階によっては、発芽不良や生育障害につながるため注意が必要です。
まとめ|ECが高いときは、まず土壌の状態を確認しよう
土壌ECは、水に溶けている塩類の濃度を知るための重要な指標です。
ECが高すぎると、根の水分吸収が妨げられ、野菜の生育に悪影響が出ることがあります。
改善するには、次の3点が大切です。
- 土壌分析でECと肥料成分を確認する
- 長年の施肥による養分蓄積を防ぐ
- 必要に応じて排水性や土壌構造を改善する
私自身、土壌改善に取り組む中で、水菜の生育が良くなるまでに約3年かかりました。
肥料は不足することだけでなく、長年の蓄積にも注意が必要です。
野菜の生育が悪いときは、肥料を追加する前に、一度土の状態を確認してみましょう。

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